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    3号READ特集
    「文字と花が魅了する、モダンな押し花アート」

    ボタニカルとは、植物という意味。 花に限らず、植物の葉や茎も立派な鑑賞アイテム。 見れば見るほどに、その色や不思議な形に見せられます。 花満開の春を待ちながら・・・ 今月は、色鮮やかなボタニカルプレスの世界へ

  • 記念日の花束を、いつまでも手元に残しておきたいと思ったことはありませんか? いままでは花瓶に生けて楽しむか、せいぜいドライフラワーにするしかありませんでした。ところが、花束をそのまま押し花にしてくれるサービスがあるのです。ブライダルブーケの押し花や、押し花にスタイリッシュな文字を添えたアート作品まで、生花の色形はそのままに美しく額装されたものをボタニカルプレスと呼びます。 考案したのは、ボタニカルプレス作家の輪湖もなみさんです。ブライダルブーケの押し花制作の他、自宅アトリエでレッスンも手がける輪湖さんに、ボタニカルプレスの魅力についてお話をうかがいました。

  • (プロフィール)
    輪湖もなみ(わこもなみ)。 (有)モナミアンドケイ代表取締役。ボタニカルプレス(押し花)作家。(株)ワールドを経て2005年同社設立。(株)ひらまつ等著名なレストランと契約し、年間100組以上のブーケの押し花を制作。(株)エトワール海渡等商社を通じボタニカルプレス雑貨を販売。目黒区の自宅サロンで押し花教室を主宰し全国から生徒を集めている。「たけしのニッポンのミカタ」「Bon Chic」等サロンマダムやインテリア特集の取材多数。世界らん展日本大賞美術工芸部門入賞、日本フォトスタイリング協会フォトスタイリスト。色褪せしない現代的な押し花「ボタニカルプレス」を日常生活に取り入れる、花の新しい楽しみかたを提案中。 HP http://www.monami-k.com
    HP
    http://www.monami-k.com
  • ブーケを押し花にして残す

    (SHIMICOM、以下S)結婚式のブーケを押し花にできるのですか?
    (輪湖さん)結婚式は人生の大きな晴れ舞台ですから、「大切な記念の花をずっと残しておきたい」と思う花嫁さんは多いと思います。 近頃の結婚式ではブーケを二つご用意される方が多く、ひとつはブーケトス用、もうひとつは花嫁さんの手元に残しておく花束です。私が作るブライダルブーケの押し花は、その花嫁さん用のブーケをお預かりして押し花にします。しおれないうちにすべてを解体し押し花処理をします。花びらを完全に乾燥させたら、今度は立体感が生まれるように台紙に貼りつけていきます。もとのブーケを正確に再現しなければなりませんから、とにかく丁寧に。小さな花びらがたくさんついているお花などは、貼付ける時に吹き飛んでしまわないよう、息を止めて作業をすることもあり最後まで気を抜けませんが、みなさん「見る度に結婚式の感動を思い出す」ととても喜んでくださるので、それが励みになりますね。
  • ボタニカルプレスとの出会い

    (S)ボタニカルプレスについて教えてください。
    (輪湖さん)「ボタニカルプレス」とは簡単に言えば「押し花」のことです。イギリス発祥の工芸品で、もともとは植物の標本だったんです。18世紀のヨーロッパで貿易用にアジアからの薬草を紙に貼りつけて、サンプルとして残していたものがボタニカルプレスの起源と言われています。それが次第に手工芸として広まったようです。その後、日本に入って来て、時間が経っても色変わりしないように薬品や絵の具で色加工をする技術が発達しました。例えば、いただいた時は真っ赤なお花だったのに、時間が経ち色が褪せてしまって「あの時の色と全然違う」となってしまったらがっかりですよね。それで、日本では研究を重ねて彩色と保色の技術を生み出しました。もちろん私も独自の彩色技法を研究して使っています。そうすることで、生花の時の色とほとんど変わることなく何年間も保つことができるのです。
  • (S)ボタニカルプレスに目覚めたきっかけとは?
    (輪湖さん)実は最初はカリグラフィー(※1)からのスタートだったんです。私は長くファッション業界で働いていまして、毎日とても忙しく、気付けば会社と職場を往復しているだけのような生活でした。それで、気分転換にとカリグラフィーを習い始めました。文字を書いている時はすべてを忘れて一心に集中できるのでストレス解消になると思ったんです。 上達してきた頃、先生が「作品展に出してみない?」と声をかけてくださって。ところが、大きい作品を作ろうとすると文字だけではなかなか白い空間が埋まらないんです。それで「空いたスペースにお花を貼ったら可愛いかもしれない」と思いついて、押し花を貼ってみたところ、手書き文字と押し花でとても温かい雰囲気になり「これはいい!」と。それをきっかけに本格的に押し花を学び技術を身につけました。植物のありのままの美しさをいかした押し花は女性に受けると思いましたし、何より自分自身が押し花に魅了されてしまったんです。それで思い切って会社を辞めて、ボタニカルプレスでやっていこうと決心しました。

    ※1・・・専用のペンを使って美しいアルファベットを書く技術。またその書体。

  • (S)カリグラフィーと押し花の組み合わせは独特ですが?
    (輪湖さん)この組み合わせは私が考えました。実は、押し花を「ボタニカルプレス」と名付けたのも私なんです(笑)。押し花と聞くと何となく昔っぽいイメージがあるので払拭したかったんです。せっかく作ったのだから仕舞っておくのではなく飾っていただきたいですし、そのためには現代の家に溶け込むようなモダンなテイストのものを作りたいと思いました。それで、「お花の良さをいかす」「モダンで現代的」「色が変わらない」といった特徴を持たせたものを「ボタニカルプレス」と名付け、広めることにしたんです。それに加え、文字と押し花を組み合わせた時の素晴らしさを多くの方に味わってほしかったので教室を始めました。生徒さんは、20?60代と本当に幅広いですが、カリグラフィーと合わせることで、みなさん「押し花のイメージが変わった」と言ってくださいますね。
  • (S)作品作りではアイデアはどこから得ているのですか?
    (輪湖さん)趣味は寄り道と立ち読みなんです(笑)。家の中だけにいると刺激を受けないので、できるだけいろんな場所に出かけるようにしています。美術館や展示会、新しいレストランやアパレルのショップがオープンすればすぐに行きますし、女性が「新しいな、素敵だな」と感じるところにはジャンルを問わず食いつきますね(笑)。そうすると、「こういう作品を作りたい」というイメージが浮かんでくるんです。立ち読みも、コミック、デザイン書、ファッション誌とジャンル問わずです。古本屋さんで昔の雑誌を見るのもいい刺激になります。また、新作ができると高校生の娘に見せて感想を聞いたりもしています(笑)。
  • ボタニカルプレスの魅力

    (S)どういうところに面白さを感じますか?
    (輪湖さん)なんと言ってもお花のエネルギーを表現できるところです。花にはそれぞれの良さや持ち味があるので、それを最大限にいかしてあげたいと思っています。私は昔からお花が好きで、フラワーアレンジメントや生け花も習っていましたから、もともと花には詳しい方でした。でもこの仕事を始めてからはお花屋さん並みに数多くの花を見ているので、より花からインスピレーションを感じるようになりました。ですから、作品作りはまず花を見て、そこからイメージを広げていくようにしています。例えばススキなら、そのスッとしたところが映えるように作るのが、素敵な作品になる近道だと思っています。 花びらをきれいに広げて押し花にするのもいいのですが、重なっていてもそれもまた味があります。花びらの表と裏で色や形が違うものも、また面白さが生まれます。バラバラにして押し花にしますので、全体像だけでなく、茎や花びらといったパーツで見るとまた違う発見があります。始めて10年になりますがまったく飽きることがありません。
  • (S)ボタニカルプレスはどんなシーンで活用できますか?
    (輪湖さん)最初にブライダルブーケの押し花を注文してくださり、翌年から毎年結婚記念日に旦那様からプレゼントされるお花を押し花にして残していらっしゃる方がいます。また、大会などで優勝された時の花束や、お子さんの卒園式で胸に飾ったお花を残される方もいらっしゃいます。写真ではなく実物のお花が残るというのは、また感慨深いものですよね。ご自分で作れるようになれば、お子さんとお散歩中にみつけた植物やお庭の一輪など、立派なお花をわざわざ買わなくても手軽に素敵な作品が作れます。私は旅に出かける時も必ずボタニカルプレスのセットを持って行きます。旅先でみつけたお花を挟んでパックにして、持ち帰ってきて自宅で押し花にするんです。旅の写真と共に綴じればまた素敵な思い出の品になりますから。
  • (取材を終えて)
    アンティーク家具が配された輪湖さんの自宅アトリエに、モダンなボタニカルプレスの作品がとてもよく馴染んでいます。お部屋に生花を飾るのもいいですが、ボタニカルプレスには時が止まったような静謐さがあり、お部屋全体がとっても落ち着いた印象になるように感じました。 「押し花は紙と同じで、例えばギフトに添えるタグやキャンドルに貼っても素敵ですよ」と輪湖さん。憧れるばかりではなく、案外身近な楽しみ方があることを知り、ぜひ一度ボタニカルプレスをやってみたいとの思いを強くした今回の取材でした。
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真 中根佑子