• 1月号READ特集
    「心を結ぶ加賀水引」

    お年玉などを入れるご祝儀袋や結納品の包みには、 紅白の水引が使われています。 日本人には馴染みが深い水引。 まるで芸術品のような造形美をもつ加賀水引に注目してみました。

  • (プロフィール)
    津田六佑(つだろくすけ)/加賀水引 津田水引折型 五代目 1981年、石川県金沢市生まれ。大学卒業後、WEB関連企業でWEBデザインやネット販売をしたのち、2014年9月に加賀水引 津田水引折型・五代目を継承。伝統の加賀水引の基本を習得しながら、水引細工の新作デザインを考案、制作に力を注いでいる。各地で加賀水引折型の個展も開催。 加賀水引 津田水引折型 石川県金沢市野町1-1-36 TEL:076-214-63636

  • 作法を芸術にまで押し上げた加賀水引

    (SHIMICOM、以下S)ご祝儀袋についている水引は身近なようで、歴史などはあまり知りません。
    津田さん そもそも「贈り物に水引を掛ける」という行為は、中国から伝わりました。聖徳太子の時代、遣隋使の小野妹子らが随から持ち帰った贈り物に、赤と白の麻紐が結ばれており、そこから、日本人は紅白の麻紐を、航海の災いから品物と人々を守ってくれる魔除けだと考えるようになったと言われています。
    S そこから日本独自の水引文化へと発達していったのですね。
    津田さん そうですね。また、その結び目に、「互いの関係がしっかりと結ばれますように」という相手方の思いを感じ取ったのではないでしょうか。その心が、現在の水引の根底に流れているのだと思います。
    S 水引の基本について教えてください。
    津田さん 当店の看板に「水引折型」とあるように、水引を掛けるだけではなく、「和紙で包む」「包んだ品を水引で結ぶ」「そこに用途や名前を書く」、この3つを合わせたものが水引折型であり、金品など、気持ちを込めて贈るというのが水引の文化です。ただし、もともと水引折型には小笠原流という作法があり、貴族など上流階級だけに許されたものでした。それが、文明開化で庶民も水引を使用することが許され、全国に広がっていったのです。

    贈り物に掛けられた加賀水引は、優美な立体に仕上げるが特徴。

    朱塗りの酒樽に掛けられた水引(左、右)と、水引工芸作品としての甲冑(中央)。

  • S  加賀水引の特徴はどういうものですか?。
    津田さん 水引折型は、魔除けとしての祈りや願いを込めるため、お祝いの種類別、あるいは用途別に、包み方や水引の掛け方に細かな決まりがあります。小笠原流は折り目をきっちりと見せるため、和紙を複雑に折り、水引を平面的なあわじ結び※1で掛けた端正なものです。ところが、津田水引初代の津田左右吉は、さらに豪華で美しい包み方はないものかと考えたのです。そこで編み出されたのが、ふっくらとしたボリュームのある包み方と、立体的で芸術的に結ぶ加賀水引です。どの水引細工もあわじ結びの組み合わせで作るのは、もともとは小笠原流の水引折型が原点だからです。
    S それで、加賀水引は立体的なのですね。
    津田さん 水引細工は贈り主の祈りや願いを込めて品物につけるため、打ち出の小槌、鯛、伊勢海老、鶴亀、松竹梅などおめでたい作品ばかりです。そのため、開封すれば役目が終わるのではなく、お正月など、ことある毎に水引を出して床の間に飾ったり、熨斗押さえ※2として使っていました。結納品に掛けるような豪華な水引は、羽子板につけたり、板につけて壁掛けにします。受け取ったら役目が終わるわけではないのです。

    ※ 1 あわじ結び:左右の輪を互いに絡ませた方法で、水引の最高位の結び方。

    ※ 2 熨斗押さえ:白木の三方に乗せた熨斗飾りを押さえる道具。

    おめでたい鶴と亀の水引細工。全て水引で作られている。

  • おめでたい水引工芸作品は飾りにもなる。

    〆飾りにも水引を。

    季節の花の水引細工。

  •  水引の美しさは直線と曲線にある

    S 毎年、干支作品を作られているようですが、デザインするのは難しくないのでしょうか?
    津田さん 気軽に飾れるサイズでありながら、シンプルで美しいデザインにするのは大変です。何本の水引を使い、いくつのパーツに分けるかで、大きさも見た目も変わります。今年の干支の鶏は、今の形になるまでに試作品を50個以上も作りました。水引細工の美しさは水引が作り出す直線と曲線です。あまりリアルに作ると、水引そのものの美しさが引き立ちません。要素を極力減らして、デフォルメしていくことがポイントなのです。
    S デフォルメした美しさが魅力でもあるのですね。
    津田さん 水引は和紙をねじってこよりにし、そこに水のりを塗って、まわりに絹糸や金糸・銀糸などを巻いて作ります。そのため丈夫で、色も何百色もあります。

    水引は一つひとつ心を込めて作られる。

  • 今年の干支「鶏」飾り。

    鶏は、あわじ結びのパーツを組み合わせて作る。

  • 今、水引で作ったアクセサリーが評判ですが。
    津田さん 30年ほど前に、「一般の人が簡単に作れる水引体験プログラムができないか」という要請を県や市から受け、四代目※3の津田さゆみが考えました。それが、北陸新幹線の開業もあり、注目されるようになったのだと思います。去年の夏には、四代目・津田宏が作った加賀水引のかんざしがテレビコマーシャルで使われ、ますます評判になりました。
    体験プログラムになっているということは、私たちでも簡単に作れるということでしょうか?
    津田さん あわじ結びを使ったアクセサリーやしおり、ストラップは比較的簡単です。ぜひ、チャレンジしてみてください。
    S 水引のアクセサリーなど、どのように手入れすればいいのでしょう?
    津田さん 和紙は濡れても乾かせば何ごともなかったかのように元に戻ります。多少の汚れなら洗って拭いてから乾かせば大丈夫です。実際に私も、コースターや箸置きを何年間も使い続けていますよ。日に焼けるという心配もあまりないようです。実は、店には70〜100年前の水引工芸作品が飾ってありますが、それほど極端に退色していません。

    ※3 津田宏さんとさゆみさんは、ご夫婦で加賀水引 津田水引折型・四代目。

  • あわじ結びの美しさを生かした水引のアクセサリー。

    テレビコマーシャルでも話題になった水引のかんざし。あわじ結びで作られた椿の花が見事。

    あわじ結びをつなぎ合わせた巾着。

    祝い膳にも水引が。

    華やかな食卓を演出する箸置き。

  • 水引はおもてなしの心

    S 今後の夢を教えてもらえますか?
    津田さん ひとことでいえば、水引折型は日本の伝統的なラッピングです。ですから、皆さんが「プレゼントを和紙できれいに包んで、水引を掛けたい」と、店にラッピングを頼みに来る。私はそんな水引文化を蘇らせたいと思っています。
    S 水引を掛けると、同じプレゼントでも価値が違いますね。
    津田さん ご祝儀として、同じ1万円を渡すのでも、水引が印刷されているご祝儀袋を使うのと、立体的な加賀水引を掛けたご祝儀袋を使うのでは、受け取った方の気持ちが違うと思います。それは、水引の豪華さというより、そこに気持ちが込められているかどうかの違いです。
    S 相手のことを思う気持ちですね。
    津田さん 二代目の津田梅は、「水引を使って贈答する人は、必ず出世する」と言っていました。敬って贈っているのが、相手にも伝わるからです。水引折型は「おもてなしの原点」といってもいいのではないでしょうか。

    正月飾りも水引で。

    水引つき封筒に、受け取った人も思わずにっこり。

  • (取材を終えて)

    「水引に祈りが込められている」とは考えもしませんでした。最近では水引のアクセサリーが人気ですが、今回の取材で、水引本来の意味を見直すきっかけとなりました。同時に、贈り物に水引を使ってみたいとも思いました。

    (クレジット)
    取材協力:加賀水引 津田水引折型
    取材・文:吉澤実祐
    写真:タカオカ邦彦 

    何十年も前に作られたおひな様。お顔が水引で作られているのが見て取れる。