• 4月号READ特集
    「手のひらサイズのファンタジー」

    商都・大阪 古くから文房具に通じてきたこの街では、今なお。 一つひとつ違うデザインや色、趣向を凝らした形 など、使う人のこだわりを、小さな手のひら サイズに凝縮した「文房具の世界」を大事に する人たちがいます。

  • (プロフィール)
    山台志穂(やまだいしほ)さん/エフロノット店主 学生時代から、海外を旅するうちに、日本にはない味わいのある雑貨や文具に魅せられる。2011年2月にヘブライ雑貨と文房具の店エフロノットを開店。

    山台坦(やまだいひろし)さん/鉛筆収集家 現在、娘・志穂さんの文房具店の向かいで、これまでに集めた1万本以上の鉛筆を展示している。

  • 鉛筆が物語るもの

    文房具といわれて、まず頭に浮かぶのは、鉛筆ではないでしょうか? かつて、鉛筆は筆記具の代表格として、全国レベルで 必需品とされた時代もありました。 そんな時代に製造された「ノベルティー鉛筆」や 懐かしい鉛筆など、1万本以上を集めた展示が あると聞いて訪ねました。

  • 戦後はノベルティー鉛筆が花盛り

    SHIMICOM、以下S まずは、鉛筆収集家であるお父様・坦さんにお聞きします。鉛筆に興味を持たれたのはなぜですか?
    山台坦さん 私は仕事人間で、とりたてて趣味もなかったのですが、10年前、還暦を迎えたのを機に、自分の人生を振り返ってみました。すると、最初に思い出したのが、祖母に買ってもらった鉛筆だったのです。
    S 小学校入学のお祝いの鉛筆ですか?
    山台坦さん いいえ、私が子どもの頃は戦後だったので、あまり文房具を買ってもらえず、薬局で配るノベルティーの鉛筆を使っていましたね。子ども心に鉛筆が欲しくて欲しくて、薬局の息子とわざわざ友だちになって、家に遊びに行っては特別にもらったりして。そんな私を見た祖母が、かわいそうだと思ったんでしょうね。小学校2年か3年の頃に、初めて鉛筆を買ってくれました。
    S 当時のノベルティー鉛筆とはどんなものだったのでしょうか?
    山台坦さん 鉛筆の側面に、商品名や会社のロゴ、キャッチコピーなどを入れた鉛筆です。今のようにシャープペンシルやボールペンが一般的ではありませんでしたから、どの家庭でも鉛筆は必需品。食卓やこたつ、電話の横など、あちこちに置かれていました。だから、鉛筆を配ると喜ばれましたし、いつも文字が目に触れるので宣伝効果もあったのだと思います
  • S 「えんぴつ1万本超えちゃいました展」にも、ノベルティーの鉛筆がたくさんコレクションされていますね。
    山台坦さん いろんな会社がノベルティー鉛筆を出すものですから、各社とも「自社の広告を入れた鉛筆を使って欲しい」と考え、どんどん工夫されていきました。そんな流れの中で、消しゴム付きの鉛筆が出てきたり、赤鉛筆と黒鉛筆を半分づつつないだ鉛筆も登場しました。中でもおもしろいのは平たいカーペンター鉛筆です。
    S どうして平たいのですか?
    山台坦さん 平たいので、大工さんが材木の上に置いても、高いところから落としても転がっていきません。もともとはアメリカで作られたのですが、会社名を入れるスペースが広いからと、日本でも作られたのです。カーペンター鉛筆をさらに薄くして、栞のように手帳に挟んで使う鉛筆もありました。
    S 一本の鉛筆がどんどん進化していったのですね。
    山台坦さん 実は、戦後、露天では「ニセモノ鉛筆」と呼ばれる物が売られていました。これは芯のない鉛筆。家に持ち帰って、いくら削っても芯が出てこない。そこで初めて「騙された」と気付くんです。
    S 安価なニセモノが作られるほど、需要があったのですね

  • 一本の鉛筆にもさまざまな使い方が

    山台坦さん ここにはまだまだ珍しい鉛筆がありますよ。例えば、書いた瞬間は消しゴムで消せるけど、しばらく空気に触れると化学変化を起こして文字が消えなくなるインク鉛筆もあります。インク鉛筆を使えば清書をする必要がありません。また、フランスでは、かつて、振ると先から鉛筆が出るドロッパーペンシルが流行りました。
    S 鉛筆というよりアクセサリーのように見えますが?
    山台坦さん これは舞踏会など社交的な場で使用されたといわれています。チェーンを通す輪がついているので、ドレスを着用したときにネックレスのように使えるし、サッとひと振りして鉛筆を出せば、メモをとることもできるわけです。
    S 鉛筆一本にも、さまざまな使い方があったんですね。
    山台坦さん たった一本の鉛筆に、さまざまな知恵や工夫が込められていて、そのバリエーションの多さが鉛筆収集のおもしろさです。今でも珍しい鉛筆を見つけてはコレクションに加えていて、楽しみは尽きません。

  • S 思い出の鉛筆集めから始まり、今や世界中の珍しい鉛筆の一大コレクションを築いた父・坦さん。一方、娘・志穂さんが文房具店を開くきっかけは何だったのでしょうか?
    山台志穂さん 私は子どもの頃、絶対に使うことのない極細の鉛筆とか、人形や動物の形をした消しゴムを集めていました。今でいうおしゃれ小物とかファンシー雑貨の感覚ですよね。お小遣いを貯めては、近所の文具店で買っていたんです。それが高じて、「駄菓子店のような雑貨店を作りたい」と思うようになりました。学生時代には海外をあちこち旅行しましたが、旅先でスーパーや日用品店に入ると、日本とは違った文房具があるのでおもしろいなと思ったのです。中でも、イスラエルの物は素朴であたたかみを感じました。父の影響でしょうか、今ではこの店にこだわりの鉛筆が増えていましました。
    S どんな鉛筆があるのですか?
    山台志穂さん 2本の鉛筆が繋がっているヌンチャク型ボールペンとか、割る瞬間がおもしろい、2本が横に繋がった割り箸鉛筆とか・・・・。赤鉛筆を忘れたときに何とかその場をしのぐため、上3〜4cmだけ赤鉛筆になっている黒鉛筆もあります。
    S 文房具でありながら、玩具のようですね。
    山台志穂さん 学校に持って行ったら、先生に怒られるかもしれませんね。でも、大阪の人間はそいったおもしろい商品が好きなんです。他にも上の方がスタンプになった鉛筆や、くねくねといくらでも曲げられる鉛筆もあります。こんな鉛筆を見ていたら、大人でも思わず幸せな気分になりませんか?私はそんな気持ちをみんなに伝えたいのです。
    S たった17〜18cmの鉛筆にも、さまざまな歴史と工夫が詰まっていて、ともて興味深いですね。

  • 「こだわりの文房具めぐり」

    葉っぱ型のメモ用紙や和紙の名刺など、紙にこだわると、日常がちょっぴり豊かに。

  • 世界で一冊、自分だけのオリジナルノートが作れる

  • おしゃれな輸入筆記具に見とれる
    本好きを唸らせるこだわりの文房具
  • (取材を終えて)

    今や、文房具もネットで注文できる時代です。機能性に優れた文房具も次々と発表されます。それでも、気に入った色や形の文房具は、たとえ古くなっても手放せないもの。今回、商都・大阪を巡りながら、こだわりの文房具の魅力を再発見することができました。

    (クレジット)
    取材・文:吉澤実祐
    写真:嶋並にろみ(嶋並写真事務所)