• 7月号READ特集
    「馬に乗って、野山や海岸を歩こう」

    屋内や屋外に関わらず、さまざまな趣味やスポーツ、 レジャーが楽しまれるようになってきました。 その中でも、年齢や性別を問わずに楽しめるものがあります。 それがホーストレッキング。 日本だけではなく、世界中で古くから愛されているのには 理由があるようです。


  • 野山を歩いて風景を楽しむトレッキングがブームです。その方法は自転車を使ったり、スキーをしながら、キャンプをしながらとさまざま。 そんな中、注目されているのが、欧米では古くから行われ、トレイル・ライディングとも呼ばれているホーストレッキング。ここ数年、海外はもちろん、日本でも北海道から沖縄まで全国10箇所以上の場所でホーストレッキングが行われており、馬で野山や草原をいくツアーが人気です。 でも、なぜ人は馬の背に揺られて歩くことに魅了されるのか、その理由が知りたくて、ホーストレッキングを行っている牧場に向かいました。

  • 〔プロフィール〕

    小浜真人(おばままさと)/ホーストレッキングパーク館山 施設長兼インストラクター
    子どもの頃から動物好きで、TV番組「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」(フジテレビ系列)を観て育つ。高校卒業後、北海道の「ムツゴロウ動物王国」でアルバイト。2004年に「東京ムツゴロウ動物王国」(東京都あきる野市)に就職。その後、北海道に移り住んだ後、2014年「ホーストレッキングパーク館山」オープンを機にチーフインストラクターに就任。ホーストレッキングの魅力を広めようとしている。

    • ホーストレッキングパーク館山
      https://horsetrekking.jp

  • 大きくて優しい馬に魅了されて

    ホーストレッキングでは、後ろの馬が前の馬についていくため、先頭を進むインストラクターが重要です。そこで、乗馬歴20年のインストラクターの小浜さんに話を伺いました。

    SHIMICOM、以下S 小浜さんが馬と出会ったのはいつですか?
    小浜さん 子どもの頃、父に連れて行ってもらった長崎で、馬に乗って海岸を歩いたのが馬との出会いです。その後、高校時代に行った北海道ツアーで、間近に馬を見てすっかり夢中になりました。
    S 馬のどこに魅了されたのでしょう?
    小浜さん 馬は大きな動物ですが、とても優しくて、自分より小さな私たちに気を使ってくれます。また、人の気持ちに対しても非常に敏感です。私が悩んでいる日など、馬たちは自分からすり寄ってきてくれます。私の心を察して、慰めてくれるのです。馬の目を見てください。優しそうでしょう。 乗って移動できるというのも魅力です。馬と乗り手の呼吸が合えば、こちらが指示を出さなくても、思った通りに歩いてくれます。「馬と通じ合えた」と思えるこの瞬間が最高の気分です。
  • S ホーストレッキングの魅力を教えていただけますか?
    小浜さん まず、馬に乗ると目線が1メートル近く高くなります。1メートル高くなるだけで、景色など周囲の見え方が違ってくるのです。また、高くなった分、風も感じられますから、自然との一体感もあります。次に、トレッキング中に規則的に聞こえる蹄鉄の音、馬の歩みによる心地良い揺れなどから、乗り手の緊張がほぐれ、徐々にリラックスしていきます。 また、見える景色が次から次へと変わるのもホーストレッキングの魅力でしょう。例えば、馬の背に揺られて丘の上まで行き、夕陽を眺めながらコーヒーを湧かして飲んだり、馬から降りてお弁当を食べたりと、柵の中で行う乗馬では体験できないばかりです。
    S ホーストレッキングならではの楽しみ方ですね。
    小浜さん 私はここで、インストラクターとして3年ほどホーストレッキングをしていますが、今でも馬と一緒に見る夕陽に感動します。ここでは海越しに富士山が見えるのですが、海に浮かぶ富士、赤富士、ダイヤモンド富士と、毎回表情の違った富士山が見られるのです。それらを馬の背から眺める時、本当に幸せな気分になります。
  • 初心者でも楽しめるホーストレッキング

    S ところで、初心者でもホーストレッキングはできますか?
    小浜さん 馬には体高(背中までの高さ)が 120cmくらいの小柄な在来馬と、 サラブレッドなど体高145cmくらいの大柄な馬がいます。体高が低い馬は、歩いたとき、背中の上下動が少ないので、初心者でも乗りやすいでしょう。最近、ホーストレッキングの施設が増えていますが、誰でも乗れるようにと、在来馬や在来馬と海外の馬を掛け合わせた馬を使っている所が多いようです。どの施設でも、最初に乗り方を教えてくれますし、馬は前の馬について行くように調教されています。ですから、初心者でも子どもでも大丈夫です。
    S 馬と触れ合ううえで、何か注意すべきことはありますか?
    小浜さん 可愛いからと馬の顔をのぞき込む方がいますが、それは馬が嫌がります。皆さんも、知らない人にいきなり顔をのぞき込まれたら、いい気分はしませんよね。自分が馬になったつもりで、嫌なことはしない。それが基本だと思います。馬に乗っているときは、耳に注目してください。耳を後ろの方に向けて、馬は乗っている人の話を聞いていますよ。
  • S ホーストレッキングを終えたお客さまは、どんな感想を話されますか?
    小浜さん 馬を降りると、まず最初に「この子とお別れするのが寂しい」と言って、馬の首筋をなでます。2時間も乗ると、馬を名前で呼んだり、「この子」と呼ぶようになります。きっと、コミュニケーションがとれて、「乗り手と馬」以上の感情を抱くようになるのでしょう。中には「悩んでいるのがバカバカしくなった」、「迷っていたけど、思い切ってやってみることにした」などと話してくださるお客さまもいます。自然との一体感や馬に乗ったことで、自信がもてるようになったのかもしれません。
    S ホーストレッキングにそんな効果があるなんて、すごいですね。
    小浜さん ホーストレッキングの本当の魅力はそこにあると思っています。だから、リピーターが多いのではないでしょうか。

  • 柵の外に出て、心の柵を取り去ろう

    ホーストレッキングの魅力は、馬に乗って歩くだけでしょうか? もしかしたら、もっと奥深いものがあるのかもしれません。

    S 柵の中と外では、馬にも違いがあるのでしょうか?
    小浜さん 馬場の柵の中では馬も緊張しています。そのため歩幅が狭くなっているのです。しかし、柵外に出れば馬も解放されてマイペースに歩き始めます。そんな馬の気持ちが伝わり、ホーストレッキングでは乗り手の心も自然と開放されますよ。
    S 乗り手の心が開放されるのですか?
    小浜さん しがらみから解き放たれ、自分に対して素直になれるのかもしれません。実は、私には忘れられないお客さまがいます。会社員だったその方は、仕事で悩みを抱えているようでした。コースの途中で馬が海に入り、早足になると、何と海に落ちてしまったのです。私は「大変だ」と思って駆け寄ったのですが、波の中から笑顔で出てきて、「何だか吹っ切れました。私は会社を辞めます」と。「実は、私にはやりたいことがあります。今日、その道を進むことに決めました」と爽やかにおっしゃったのです。
  • (取材を終えて)

    馬場馬術やエンデュランスのようにタイムや騎乗スタイルを競う競技と異なり、馬に身を任せて自然の中を行くホーストレッキングなら、初心者の私でもできそうです。 ホーストレッキングは初めて出会った方とも楽しめますが、 友達や家族のように生涯を通して分かり合える仲間と行うことで、 楽しさだけではなく、明日に通じる何かを与えてくれます。 皆さんも、この夏、ホーストレッキングで心を解放してみませんか?

    (クレジット)
    取材協力:ホーストレッキングパーク館山
    取材・文:吉澤実祐
    写真:中根佑子 

    ホーストレッキングパーク館山 千葉県館山市犬石1886-1 TEL:080-7772-7533(11:00〜18:00) 定休日:月曜日/第3火曜日 H.P.: https://horsetrekking.jp